江戸美術の革命ー春信の時代@千葉市美術館
なんとか春信展を観終わったと思ったら、春信にちなんだ千葉市美術館の所蔵作品展が続いていました。足は悲鳴を挙げていたし、集中力も限界に近かったけれど、せっかくの機会だから観ないわけにはいきません。
「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」に併せて開催する千葉市美術館の所蔵作品展では、「春信の時代」として、この宝暦から明和(1751-71)という時期に的を絞って各地の動きを探ります。今から約250年前の20年というごく限定した時間内に生まれた絵画作品の数々をご覧いただきますが、応挙、若冲、蕭白、大雅といった作者の顔ぶれに、春信を輩出した時代の息吹を感じ、ご堪能くだされば幸いです。
以下に気になったものをメモとして残します(所蔵先がないものは全て千葉市美術館蔵)。
新しい風
《筆者不詳/柏岩性節賛 隠元隆琦像 紙本着色 3幅のうち1幅 延宝元年(1673)以前 個人蔵》
隠元隆琦は高徳の明僧で、1654年に渡来して黄檗山萬福寺を開創した。柏岩性節はその弟子。東博の禅展でもいくつかの隠元像を観たが、似たような印象。
《白隠 半身達磨 紙本墨画 1幅 18世紀中期 個人蔵》
横長の紙の右寄りに、力強い早い筆の動きで達磨が描かれている。その左に、直指人心見性成仏と書かれている。有名な禅宗用語で、真理は心の外ではなく心の中にある。生まれながらに持っている仏性を体得せよというもの。
《不詳(イギリス製か) 反射式覗き機関(覗き眼鏡) 1基 18世紀後期 個人蔵》
45度傾けた鏡に映した絵をレンズを通して見るための装置。円山応挙展で彼が得意とした眼鏡絵というのがあったが、どうやらこれを使ってみる絵のことらしい。
京都――蕪村、大雅、蕭白、若冲、応挙、それぞれの始動
《丸山応挙 雪景山水図襖(円満院旧蔵) 紙本墨画 襖19面のうち10面 明和期(1764~72)》
静謐な雪景を墨一色で描いた襖10面が並ぶ。
《曾我蕭白 獅子虎図 紙本墨画 2曲1双 宝歴(1751~64)頃》
左隻に描かれている虎は、細い竹がしなるほどの風を嫌がって顔をしかめているし、右隻の獅子は、牡丹の花から飛び立った蝶に驚いて跳ね逃げている有様。強いはずの二頭がやけにユーモラスに描かれている。
《曾我蕭白 寿老人・鹿・鶴図 紙本墨画 3幅 宝歴8、9年(1758、59)頃 個人蔵(委託)》
中幅に寿老人、右幅に鹿、左幅に鶴の三幅対。
寿老人を見上げる亀と、やけに雑な鹿が印象的でした。
《伊藤若冲 寿老人・孔雀・菊図 紙本墨画 3幅 宝歴(1751~64)中・後期頃》
中幅に寿老人、右幅に孔雀、左幅に菊の三幅対。濃墨と淡墨を効果的に使って描かれている。寿老人は後ろ姿。筋目描きで描かれた菊や孔雀の羽毛の表現はさすがとしか言いようがない。
《伊藤若冲 鸚鵡図 絹本着色 1幅 宝暦(1751~64)後期~明和期(1764~72)頃》
豪華な装飾のある赤い止まり木に止まり、左を向くタイハクオウム。冠羽を軽く立てて軽く緊張している。羽毛が細やかに書き込まれている。この赤い止まり木の白いオウムの絵は他にもいくつかあり、そのうちのひとつ、ちょうど反転して描いたようなものがボストン美術館に収蔵されている。
《池大雅 渓行放情図・富嶽春景図・李白詩意図 紙本墨画 宝歴13年(1763) 西谷コレクション 寄贈》
右幅は山々が連なり、中幅は尾根から見える富士山、左幅は切り立った山々を縫うように続く川が描かれている。軽舟已過万重山とあることから、李白の詠んだ「早発白帝城」の軽舟已に過ぐ万重の山が描かれている。
南蘋画風の広まり
《宋紫石 雨中軍鶏図 絹本着色 1幅明和8年(1771) 個人蔵(寄託)》
横殴りの強い雨の中、胸を張って立つ軍鶏。
宋紫石は江戸時代中期の沈南蘋派の画家。江戸で沈南蘋派の花鳥画を広めた。
出版界の革命 モノクロームとカラー
《勝間龍水 絵本海の幸 彩色摺絵入俳諧本 2冊 寛永12年(1762)》
春信に先駆けた多色刷りの絵本。青魚にキラが入っている。
《伊藤若冲『乗興舟』 (部分) 紙本木版正面摺 1巻 明和4年(1767)頃》
伊藤若冲が相国寺の大典和尚と淀川下りをした時の感興を絵画化した拓本画。東博で大倉集古館蔵を見た。
《(諸家) 賞春芳帖 紙本木版正面摺 1帖 天命2年(1782)刊 ラヴィッツコレクション》
京都の漢学者や医師が都の春景色を賞美した漢詩を作り、伊藤若冲、池大雅、円山応挙などの拓本画で画帖としたもの。展示されていたのは、柚木太淳の漢詩に若冲の萩の絵が添えてあった。
春信敬慕 ー近現代の画家による
《フリッツ・カペラリ 猫を抱く少女 木版多色摺 大正4年(1915)》
屏風の傍ら、黒猫を膝にしゃがみこむ赤い腰巻きだけの日本髪の女が描かれている。オーストリアの版画家で、1911年に来日し第一次世界大戦の影響で帰国できず、10年間の日本滞在中に浮世絵の影響が強く感じられる版画を制作した。
本作と《鏡の前の女(立姿)》は春信の作品と似た印象があって目が止まった。
千葉市美術館が素晴らしいコレクションを持っているというのは前々から聞いていましたが、実際、とても充実していました。しかし、こんな疲れきった状態でなく、別の機会で見たかったというのが本音で、初見の感動なんて得られませんでした。後半は集中力が切れて禄に見ていません。
足の痛みを堪えつつ、美術館の近くにある乃が美で予約しておいた生食パンを購入。なんとか千葉駅まで戻って、スタバでようやく一息つけました。
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