江戸絵画の文雅 ─魅惑の18世紀@出光美術館
いよいよ寒い季節になってきました。例年と比べたら寒の訪れが遅めでしたが、さすがに11月も下旬になるとコートなしに過ごすことは出来ません。
丸の内の出光美術館に行きました。
江戸絵画の文雅 ─魅惑の18世紀(リンクはキャッシュ)展の開催中です。
「都市」という新たな生活空間の誕生は、文学・演劇・美術など、多様な文化の成立・発展に結びつきます。こうした文化を端的にあらわす言葉に「雅俗」、すなわち、漢文学・和歌に代表される伝統的な「雅」と、俳諧や戯作といった新興の「俗」があります。
本展では18世紀に生まれた雅俗の絵画を、「文雅」、すなわち文芸をキーワードに見ていきます。
特に印象に残った作品を以下に示します(◎は重要文化財、◯は重要美術品。作品は全て出光美術館所蔵)。
第1章 孤高の美学 ─大雅・蕪村の競演
5《寿老四季山水図 五幅対 池大雅 宝暦11年(1761)紙本墨画淡彩 各127.3×29.5》
春:山居観花図、夏:高士観泉図、寿老人:南極寿星図、秋:江上笛声図、冬:雪天夜明図と、春夏秋冬の四幅に寿老人を加えた珍しい五幅対。一幅でも三幅対にしても使える構図になっていて、春秋では平遠山水、夏冬は岸壁が左右対称になる。秋は「長笛一聲 人倚樓」とある。青い月の下、茅の生える川面に浮かぶ船には横笛を吹く唐子が乗っている。
6《瀟湘八景図(洞庭秋月図) 八幅対の内 池大雅 江戸時代 紙本墨画淡彩 各45.2×28.4》
丸い月の下に丸い山、湖面に浮かぶ船には横笛を吹く唐子が乗っている。どうやら船上の笛吹唐子は大雅のお気に入りのモチーフらしい。
8《蜀桟道図 一幅 池大雅 江戸時代 紙本墨画淡彩 136.0×57.5》
蜀桟道は戦国時代に秦の恵王が蜀王を騙して敷かせた道で、切り立った崖に木を組んで取り付けられた道とも云えぬような道は、李白が「蜀道の難は、青天に上るよりも難し」と歌ったほどの難所として知られる。しかし、本画で描かれる曲がりくねった道は比較的広く、旅人の後ろを振り返りつつ進む姿には余裕が感じられ、どこかのどかな雰囲気が漂う。
12《◎山水図屏風 六曲一双 与謝蕪村 宝暦13年(1763) 絖本墨画淡彩 各166.0×378.0》
右隻に暮れゆく春の景色、左隻に色づく秋の景が描かれている。屏風講時代の絖本作品で、特に右隻の美しさに惹かれる。
近景の木々のざわめきから村上勉氏の作品の小さな葉を揺らす風、そして、佐藤さとる氏のコロボックルシリーズを連想して、一気に屏風の中の風景に飛び込んだような気分になりました。
第2章 文雅の意匠 ─琳派のみやび
16《果樹花木図屏風 六曲一隻 伝 俵屋宗達 江戸時代 紙本金地着色 151.2×356.6》
画面を横切るように緑の丘陵や土坡、画面左側に柑橘や白椿、中央に巨大な葉を広げる朴、右側に奥行きを持って朴や樅が置かれている。
大胆な構図が、時代を一回りして新しく感じた。
19《◯禊図屏風 二曲一隻 伝 尾形光琳 江戸時代 紙本金地着色 164.5×180.5》
伊勢物語の65段「恋せじと 御手洗河に せしみそぎ 神はうけずも なりにけるかな」を描いたもの。右上から大きく曲線を描いて流れる川、二本の御幣を依り代として祈る男、蛇籠が左上と右下に描かれて画面に広がりを作っている。
川面に浮かぶ黒い並々したものが羊歯か何かに見えていましたが、解説によると銀泥で描かれているそうで、波頭だそうです。
21《蹴鞠布袋図 一幅 尾形光琳 江戸時代 紙本墨画 101.9×28.9》
頭陀袋を地面に置いて天高く鞠を蹴り上げる布袋が描かれている。頭陀袋から布袋の腹、頭、蹴鞠まで丸みが順に大きくなる構図で、その中心を貫くように画面下中央に落款と印章があるのが串団子のよう。
26《梅・撫子・萩・雪図 四幅対 尾形乾山 寛保2年(1742)紙本金地着色 各24.0×28.6》
元々は袋戸用の小襖絵だったものを軸装にしたもの。角皿の下絵かと思うような正方形の画面に、四季の景物を描き和歌をしたためている。背景が金地で、文人趣味な乾山の作品としては意外なほどに華やか。乾山の画号は「深省」。
第3章 禅味逍遥
28《面壁達磨図 一幅 白隠慧鶴 江戸時代 紙本墨画 56.3×60.9》
達磨をよく描いた白隠だら、その多くは半身。本画は珍しくも達磨の全身を一筆書きのように勢いのある筆致で描き、しかも乃心の文字絵で描かれている。
ひいにふうにめん
だんを達磨に夜るも
昼るも頭巾かんぶり
すんまひて
29《瓢鯰図 一幅 画/池大雅、賛/大典顕常 江戸時代 紙本墨画 123.8×43.8》
瓢鮎図といえば如拙の描いた禅画が有名。池大雅はそれを大津絵風に、禅僧が体ほどもある大きな瓢箪で鯰をしっかり押さえつける様子を描いた。禅僧の太った丸い頭に、瓢箪の丸み、鯰の丸い頭が重なって面白い。
31《筏師画賛 一幅 与謝蕪村 江戸時代 紙本墨画 27.2×66.8》
嵐山に花見に出かけた際に突然の風雨に見舞われ、筏師の箕が風に煽られたのを花衣に見立てて描いたもの。筏師の箕は、丸めた紙を筆として使い乾墨でガサガサと描いた。
嵐山の花に
まかりけるに
俄に風雨
しけれは
いかたしの
みのや
あらしの
花衣
解説に『本画は「俗を離れて俗を用ゆ」という理想を体現するものといえよう』とあった。蕪村は門弟召波の《春泥句集》に寄せた序文で「俳諧は俗語を用ひて俗を離るるを尚ぶ。俗を離れて俗を用ゆ。離俗の法最もかたし」と記した。まさに本展のテーマそのもの。
第4章 王朝文化への憧れ ─「見立て」の機知
33《美人鑑賞図 一幅 勝川春章 江戸時代 絹本着色 69.4×123.2》
画題は西園雅集図を美人に転化したもので、狩野探幽の《竹鶴図》を鑑賞する美人、その絵の対になる《寿老人》を床に飾る美人、縁側には談笑する美人達が描かれている。画面上部には大和絵で用いられるすやり霞が描かれ、雅な雰囲気をもたらしている。
画中に花菱文の釘隠し。大和郡山藩柳沢家を表すとすれば、勝川春章を贔屓にしていた第2代藩主柳沢信鴻(のぶとき)にまつわるものではないかと推測されている。猫と着物の蝶で「耄耋(ぼうてつ)」となり長寿を表し、帯には鶴(簪は亀?)が描かれることから、信鴻の古希の祝にまつわるものではないかとも。
39《源氏物語図屏風 六曲一双 江戸時代 紙本着色 各154.6×362.2》
源氏物語54帖のうち26の情景を描いたもので、右隻は1帖『桐壺』から19帖『薄雲』まで左隻に20帖以下が描かれる。画題は物語のあらすじにはあまり寄らず、源氏の栄華を選んで抜き出されている。
第5章 幻想の空間へ ─「文雅の時代」を継承するもの
47《猿鹿図屏風 六曲一双 森狙仙 江戸時代 紙本着色 各156.4×345.0》
左隻に滝を背にした三猿、右隻に八頭の鹿を描いた屏風。森狙仙の猿はいつ見ても見事。
展示室には、作品リストに載っているものの他にも出光美術館所蔵の焼き物が飾られていました。《色絵草花鶉文大皿》の鶉が可愛らしかった。
ラウンジから望む皇居。緑が色づき始めました。
皇居乾通りの一般公開が近いはず。暇を見つけてお散歩に行かなくちゃ。
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