三度目の鈴木其一展(後期)@サントリー美術館
前回行った後に大きく展示替えしたので、三度目の其一展に行ってきました。
半分くらい入れ替わっているので、すっかり新たな気分。平日でも会場はかなり混雑していました。
酒井抱一《雪中檜に小禽図》江戸時代後期
左に寄せられた檜の構図。雪の積もった根元には赤い実と小鳥。檜の葉に積もる雪がわずかな風で散る様子が吹きぼかしで表現されています。吹きぼかしは、今でいうエアブラシのような技法で、其一の雪が落ちる音まで聞こえてきそうな《雪中竹梅小禽図》でも効果的に使われていました。
鈴木其一《夏秋渓流図屛図》江戸時代後期
この展示の注目作品です。まるで現代のポスターかと思うようなビビッドな色彩に度肝を抜かれます。従来の日本画ではありえない色彩感覚。当時、賛否両論あっただろうなあ。
これも檜。至近で見ると檜の葉の書き込みがすさまじいです。右隻は夏景色で山百合と蝉、左隻は秋景色で紅葉した柿葉が描かれています。斑点恐怖症の人にはきつそうな点苔。檜の葉は手前のも奥のも同じ大きさ。山百合も笹も同じ。こういう遠近法の狂いが不気味な空間を作っていて、自分が絵の中に入っているような気になって、じわじわと恐怖がおしよせてきます。鮮やかな青い渓流は中央に向かって流れています。
大混雑する第一展示室にあるため、開場してすぐでもないと、離れて全体を眺めるには難しい状況です。
鈴木其一《風神雷神図襖》江戸時代後期
宗達、光琳、抱一が屏風に描いた構図を、其一は背景を銀地にして八面の襖に仕立てました。屏風よりも空間に余裕があるため、たらしこみで描かれた黒い雲に勢いがあります。7月に出光美術館で抱一の風神雷神図屏風を見たばかりだったので、雷神の表情が違うのにすぐ気付きました。目線がまるっきり違います。この屏風は当初表裏で作られていたようです。そもそも風神雷神が目線を交差させる意味がなかったんですね。
朝顔図屏風と構図の共通性が注目されています。
鈴木其一《藤花図》江戸時代後期
銀地に青い藤。絡み合う太い弦がまるで動き出すかのようです。全面に小さな黒い点がある。銀砂子を散らしたのが変色してしまったらしい。非常に残念。これが光っていたら、とても煌びやかな絵だと思う。
鈴木其一《蔬菜群虫図》江戸時代後期
胡瓜の下に茄子、蛇苺が描かれている。胡瓜に添えられた竹に雀。その他に、糸蜻蛉、赤蜻蛉、蜂、蛇の目蝶、玉虫もいる。胡瓜や茄子は若い実から大きく育ったものまでがあって、植物をよく観察しています。胡瓜の巻きひげが何かにつかまろうと、空中に伸びている様子を見ると、心がざわざわします。
鈴木其一《毘沙門天像》江戸時代後期
白描だが、毘沙門天の背面に描かれる火炎に彩色がある。憤怒の顔だが、幾分コミカル。左手に宝塔。指の形がなまめかしい。鎧が実に緻密に描かれている。
毘沙門天は、仏教における天部の仏神。持国天、増長天、広目天と共に多聞天と呼ばれて四天王に数えられる武神。原語の意訳が多聞天、音訳が毘沙門天。
鈴木其一《秋草に月図》江戸時代後期
画面に大きく半円の月。その弧の中に秋草が描かれています。絵の上下に赤いライン。よく見ると兎がいます。まさにマスキングテープ仕様。其一ったら女子力高いんだから。
鈴木其一《業平東下り図》江戸時代後期
描表装を守一が手がけた親子合作。東下りの絵に描表装で四季の植物を添えている。同じものを守一が模写していて、第二展示室に飾られている。
東下りは伊勢物語の第九段。芥川で藤原高子を強奪するも失敗し、ほとぼりが冷めるまで都を離れることにする。東に進むと、まずは三河の八つ橋で杜若を詠む、その後、駿河の国宇津の山、そして、この富士山に至る。
時知らぬ山は富士の嶺いつとてか 鹿の子まだらに雪の降るらん
伊勢の男は、山の地色の黒に残雪が色々と残るのを鹿の子まだらと詠んだのですが、其一の描いた富士山にはまだらがありませんねえ。
画:鈴木其一、歌:東耕舎米員・関屋里元《小督局・源仲国図摺物》江戸時代後期
平家物語の巻第六にある小督哀話をモチーフにしたもので、高倉天皇の命を受けた源仲国が月の明るい夜に嵯峨野に小督局(こごうのつぼね)を探しに行くと、どこからか想夫恋の調べが聞こえてきたというシーンです。
鈴木其一《朝顔図屏風》江戸時代後期
いやはや、何度見ても圧巻。
《夏秋渓流図屏風》もそうだけど、この朝顔図屏風も、一体どんな日本家屋に置いたらしっくりいくんでしょうね?畳の上には舶来製の絨毯とか敷かれてそう。
今回は開場入りしたのが10時半と出遅れたため、入場した後4階行きのエレベータには乗らずに、直接第三展示室に向かいました。おかけで、しばらくは混雑することもなく朝顔図屏風の全体を堪能でき、贅沢な気分に浸りました。
鈴木其一《朴に尾長鳥図》江戸時代後期
対角線上に配置して、朴の木が描かれている。たらしこみで描かれた大きな葉。中央に白い朴の花。その横に尾長が止まっている。尾長の尾は、実際のものより長め。
鈴木其一《雪中双狗図》江戸時代後期
白黒の仔犬が雪に脚をとられて転びそうになっている。手前の白い仔犬はそれに驚いてプレイバウのポーズ。この姿勢でわざわざ後脚の肉球を描く。仔犬のチャームポイントをよくわかってらっしゃる。白黒の犬でこの模様は珍しい。普通頬よりは目の回りに黒が入るし、ドミノなら頬も白くなるはずなので八割れの盗っ人顔の犬が本当にいたのかは怪しい。
この時代、街では万年青の品種改良が流行したらしい。実のついた万年青は子孫繁栄を意味する。犬も安産のシンボルであることから、縁起物として描かれたのだろう。
似た絵で、応挙の《雪中狗子図》がある。雪の中、白黒の犬と白犬が組み合って遊んでいる。こちらの白黒は、耳も目も黒く鼻筋に白が入るよく見る模様。白眉で表情があります。
鈴木其一《大江山酒呑童子図》江戸時代後期
酒呑童子は丹波国の大江山に住んでいたと言われる鬼の頭領です。滝の見える山中で、虎の毛皮を敷物にして酒呑童子が二人の女をはべらせてお酒を飲んでいる様子が描かれています。滝の下では女が血のついた衣を洗っています。この絵では、酒呑童子は鬼ではなく若者の姿です。どこかを襲った後に祝杯を上げているシーンなのかもしれません。
帰りに星乃珈琲店で栗のスフレパンケーキ。
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満腹。二段重ねはやりすぎでした。
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