トーハク能「嵐山」@東京国立博物館 平成館
桜の花が散り始め、吹き溜まりが桜色になる季節になりました。この日は夕方に東博に入り、平成館に向かって進みました。
平成館に向かう途中で、野生の獣に遭遇。
耳を横に広げしっぽを下げて半腰。それ以上手ぶらで近づいたら、逃げますよのポーズ。はいはい、何もしませんよ。元気でね。
トーハク能「嵐山」
この日の目的はトーハク能です。
桜の季節に『嵐山』を観能するなんて、こんな贅沢はありません。
事前申し込みを逃していたので、当日申し込みで参加し、参加証を無事受け取りました。
18時前に到着して、既に大講堂の前はこの有様。
もっとも、既に参加証を頂いているので、席を選ばなければこちらで待つ必要はないのですが、私も大人しく並んでいました。群集心理ってやつですね。
入場の際、立派なパンフレットを頂きました。
トーハク能は博物館開催らしく、まずは東博の小山弓弦葉研究員から、『嵐山』の登場人物、衣装と能面、そしてあらすじの詳細な説明がありました。*1。
舞台はシテ方金春流、本田光洋氏らによるものです。『嵐山』は歴史的に金春流の能とされており、作者は室町時代の猿楽師である金春禅鳳と言われていて、ショー的な要素の多い華やかな舞台です。壇上には二本の満開の桜と白い欄干が設えてありました。
席が後方だったこともあって大変見づらく、人の頭の隙間からたまに演者が見える程度の視野しか稼げず、全体を見通すことはできませんでした。低い部分は分からずじまいです。
途中、「いろいろの」と女性の声が聞こえてきて、舞台中を単眼鏡で探しましたがどこにも見当たらず、出演者のリストを見て初めてツレの木守明神と勝手明神が女性の演者であることに気が付きました。
地謡の心地よい響きは、仏事の声明に似てトランス状態を誘うようで、うとうと舟を漕いでいる方も多く見られました。実際、とても気持ちのよいものです。ニ明神と蔵王権現が世を寿いで舞う舞台は、東博の講堂であるにも関わらず大変神々しい世界に思え、「桜の木には神が宿る」という言い伝えが演者によって体現されるのを目撃している心持ちでした。まさに幽玄の美。
舞台後の小山研究員の解説によると、本舞台はやや変わった趣向があったそうで、嵐山の蔵王権現は、通常赤頭に大飛出の面で演じられるとのことですが、今回は「白頭」で「しバララ?*2悪尉」の面だったとのこと。さらに、木守明神の狩衣が単だったので、薄物が軽やかに動いていたという話でした。
大講堂を出て、閉館までの残り1時間で能関連の展示を観るために、本館に移動しました。なにせ、平成館から移動して本館9室と14室ですから、一番やっかいなコースです。
本館 9室 能と歌舞伎 神と鬼の風姿
能における「神」と「鬼」の役に用いられる装束を展示します。舞台では能「嵐山」の後場をイメージした展示を行い、「嵐山」に登場する蔵王権現、木守の神、勝手の神といったさまざまな神々の風姿の再現をお楽しみください。
《長絹 紫地桜短冊三崩模様 1領 江戸時代・19世紀 東京・大倉集古館蔵》
『嵐山』で木守明神が着装する。紫の地で、背と袖部分に金糸で桜の枝と斜めに揺れる短冊が描かれています。長絹とは、上質の絹布で出来た、女役などに用いる広袖の表着のこと。小山研究員の解説によると、袖が二巾ある分、舞うと豪華に翻るとのこと。
《狩衣 紺地雲牡丹模様 1領 江戸時代・18世紀 文化庁蔵》
もともとは宮廷貴族が狩りや旅に出る際の外出着として発達した上衣。動きやすいように袖を裾の一部分しか窄めておらず、両脇が開いている。能では高貴な身分の男性や鬼神などの役が着用した。金糸で力強く大際な模様を織り出した金襴で仕立てられる。
《半切 紅地山道唐花模様 1腰 江戸時代・18世紀 文化庁蔵》
半切は「半分に切った袴」の意味で、通常の長袴のように引きずらない丈の短い袴のことである。能では、法被や狩衣といった上衣に合わせて鬼神役を演じる際に着用する。濃い地色に大柄で力強い模様を金糸で織り出した金襴や、華やかな錦で仕立てられる。
共に『嵐山』で蔵王権現が着装する。
《能面 邯鄲男 1面 「天下一河内」焼印 江戸時代・17世紀》
穏やかな印象の河内らしい佳作である。打彩色(筆でたたくように塗る技法)による柚子のような肌を少し研いだようになめらかである。額に鉢巻きを留める釘がある。眉間の皺は補修している。面裏は木地に漆塗り。知らせ鉋2つ揃う
『嵐山』で勝手明神が着装する。
《狩衣 花色三重襷模様 1領 江戸時代・19世紀 東京・大倉集古館蔵》
萌黄色の地に、三重襷という、斜線を交差させた中に菱があり、さらにその中に四つ菱が入った文様が入った袷の狩衣。『嵐山』で勝手明神が着装する。
本館 14室 日本の仮面 能狂言面の神と鬼
時には恵みを、時には脅威をもたらす大自然を象徴する存在である龍神、雷神、天狗が登場する能も数多くあり、その役の面は表情豊かで造形の魅力もあります。また、角を生やし、大きく見開いた目はあやしい光を放ち、牙をむく恐ろしい形相の女性を表した面、にこやかな神々の面なども併せて展示し、能面の多様性をご覧いただきます。
観能の後だったので、大変賑わっていました。
《能面 大癋見 1面 「佐渡嶋/一透作/久知住」刻銘 室町時代・15世紀 文化庁蔵》
能『鞍馬天狗』『大会』に登場する大天狗の役に用いる。結んだ口の上下かが膨らみ、目も大きく剥き出して迫力がある。面裏の刻銘にある久知は佐渡の地名。一透は鬼の面に優れていたという伝説的面打・赤鶴の別名ともいうが赤鶴は近江の人との説明もあり同一人物か不明。
翁シリーズ
大飛出シリーズ
《能面 大飛出 1面 江戸時代・18~19世紀 文化庁蔵》
能『嵐山』『国栖』に登場する蔵王権現、『賀茂』の別雷の神の役に用いる。役行者が感得した蔵王権現は怒りの目をした怖い顔で青黒い肌の色だが、能面では鍍金した銅版の強い輝きを放つ丸い目と金色の肌で神威を表す。別雷の神には大天神を用いることもある。
鬼シリーズ
こちら、右から徐々に狂気を帯びていくのが大変見応えあります。
《能面 増女 1面 「天下一近江」焼印 江戸時代・17~18世紀》
小面よりも少し年上で気高く神聖な雰囲気の面。憂いや深みのある表情をし、女神・天女などの役に用いられる。額の中央から左右へ2本、こめかみのところは細く3本、こめかみから頬へ3本の髪筋が描かれる。増阿弥が創作したといい、この名がつく。
『嵐山』で木守明神が着用する。
癋見シリーズ
*1:the 能 .com にも 嵐山の詳細 があるので、お知りになりたい方は、そちらを参考にしてください
*2:聞き取れませんでした
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