田中一村の絵画@岡田美術館
箱根に行ってきました。泊まっていたお宿の最寄り駅、大平台駅から出発。
大平台は箱根登山鉄道がスイッチバックを行う駅で、麓から登ってきた列車がここで折り返します。
駅に列車が止まると、先頭車両にいた運転手さんが後方車両までホームを移動して、さっきまで後方車両だった車両が今度は先頭車両となって線路を登ります。急斜面を進むためのジグザグ走行です。
この時期は、車内から紫陽花を楽しめます。
踏切り付近ではアジサイの他に撮り鉄さんの頭もたくさんみえました。
急カーブも多く、車内からも石積みの橋脚がよく見えます。
小涌谷駅で下車しました。
ここから目的地まで徒歩約20分「国道をひたすら登る」。
霧雨で全身がしっとりしてきました。
国道1号沿いにあるホテル小涌園を通過。
施設の老朽化の問題で今年1月に閉館したことを、入り口横のパネルで知りました。
左に行けば岡田美術館、右に行けばユネッサンという三叉路。
どっちにも行きたいけど、今回は左へ。
帰りはバスにするので、時刻表をチェックしておきましょ。こちらは、箱根登山バス。
そして、伊豆箱根バスもあります。便数が多くて便利ですね。
かくして、霧雨でしっとり濡れた岡田美術館に無事到着しました。
玄関には特別展「田中一村の絵画」展の垂れ幕が架かっていました。
着物美人の立て看板は《深川の雪》の一部でしょう。
決してお安くない入館料を払い、厳重なセキュリティーチェックを通って展示室に向かいました。
以下、気になったものについてメモを残します。
田中一村の絵画
《7 熱帯魚三種 田中一村 昭和48年(1973)》
奄美大島へ移住した一村が、色鮮やかな熱帯の魚アオブダイ、シマタレクチベラ、スジブダイを描いたもの。魚の下には黄色や緑の葉が敷き広げられ、ヤコウボクの白い花が垂れている。近づくと岩絵の具のザラザラとした粒子感が感じられ、色に重厚さがあります。巻軸では出来ない厚塗りです。
《8 雪中雄鶏図 伊藤若冲 江戸時代中期18世紀後半》
笹に積もった雪が落ちたのに驚いたのか、粉雪が舞う中、雄鶏が黒い尾羽根を跳ね上げ、片足立ちになっている。
キャプションに「一村の作品には裏彩色は確認されていませんが、塗り重ねの効果によって対象を迫真的に描く方法が『熱帯魚三種』の魚の表現に通じるように思われます」とありました。学芸員さんの苦労が忍ばれます。
一村と若冲・魁夷
《9 花卉雄鶏図 伊藤若冲 江戸時代中期 18世紀中頃》
水仙と白黒の尾羽根を翻して地面をついばむ雄鶏。太湖石には山茶花が咲く。
山茶花が生々しく、じっと眺めていると熱帯に棲むハナカマキリのように見えてきた。
《10 白花と赤翡翠 田中一村 昭和42年(1967)》
たくさんのキダチチョウセンアサガオの白い花が垂れ下がり、その枝にアカショウビンが止まっている。花の向きだけでなく、ガジュマルの気根の垂れ下がりがまるで霧雨や効果線であるかのように錯覚を生み、目線が上から下へと自然に移動してアカショウビンに向く。
濃い彩色とアカショウビンのおどけた表情にアンリ・ルソーを連想するのは、きっと私だけではないはず。
《20 春宵花影 松林桂月 昭和時代 前期20世紀中頃》
月の光に浮かぶ葉桜のシルエットが怪しい。
《22 草花図屏風 伊年印 江戸時代 前期17世紀中頃》
俵屋工房が手がけた金屏風で牡丹、立葵、桔梗、葉鶏頭、萩、菊などの四季折々の草花が細やかに描かれている。
《23 烏図 俵屋宗達 江戸時代前期 17世紀前半》
山種美術館で烏図を観たばかりでしたが、ここにも宗達の烏がいました。こちらの烏はやや大ぶりで、紙面から嘴がはみ出しそう。
花鳥の美術
《31 花鳥人物蒔絵螺鈿瓶 芝山細工 江戸~明治時代 19世紀》
木瓜型の細瓶で口と胴に木製の台座が付いた瓶の一対。胴の窓に藤と流水と鳥が芝山細工で描かれている。
《32 白磁鸚鵡形杯 五代10世紀》
白磁で作られた杯で、鸚鵡が股を広げてバスタブに浸かっているような姿をしています。お腹のぽっこり具合がすばらしかった。
《40 鍍金花鳥文八花形銀杯 唐時代 8世紀》
斜めに8本ねじれるように入ったラインが優美な小さな銀杯。繊細な蹴り彫りで花鳥文が入っている。単眼鏡がないと見えないが、地の部分には細やかに魚子が打たれている。
《43 波に雁図 円山応挙 江戸時代後期 天明5年(1785)》
着水する二羽の雁。上の半弧だけ描いた月、細やかな波の表現に目が行く。
《44 木蓮小禽図 鈴木其一 江戸時代後期 19世紀前半》
紫の木蓮が怪しく乱れ咲く。大振りな花に気を取られて見落としそうになるが、根本に鶯が止まっている。
《45 遊魚図 椿椿山 江戸時代後期 19世紀中頃》
おたまじゃくし、蟹、蝦、田螺、小魚などを描いている。水の中も外も区別のない透明感のある描写。
《46 牡丹孔雀図 長沢蘆雪 江戸時代中期 18世紀後半》
牡丹の咲く太湖石に、豪華な尾羽根を垂らした孔雀が佇む。高価な岩絵の具をふんだんに使い、まるで宝石のように綺羅びやかな孔雀を描いた。首の羽毛の向きによる立体感は応挙ゆずり。両羽の青の鮮やかさ、墨線の力強さが目に残る。
《47 雁図 葛飾北斎 江戸時代 弘化4年(1847)》
落ちてくる紅葉に向かって吠えかかるように首を伸ばす雁。駝鳥のような太い脚が奇っ怪で、妖怪じみた雰囲気がある。
逸品室
《48 ◎ 虫魚帖 渡邊崋山 江戸時代 天保12年(1841)》
全12図の虫や魚を描いた画帖。展示は3図の桑と蚕が描かれており、鼠がそれを狙っている。
花鳥の美術
《49 松に白鷹・笹に小禽図屏 竹内栖鳳 明治時代末期 20世紀初頭》
金をふんだんに撒きつぶした大型の屏風です。マットに輝く金の背景に、右隻は笹と四十雀、左隻には松と鷲が早い筆で描かれている。
《53 薫風 酒井三良 昭和時代 20世紀》
朴の白花に止まるホオジロ。白い光に包まれたような明るさが目に残る。
《54 荒磯 梥本一洋 昭和15年(1940)》
宗達の松島図を思わせる琳派波。波に金の光がある。
特別展を観た後、休憩がてら外を散策することにしました。
ここでもアジサイが楽しめました。
別府でよく見た湯雨竹です。
上からお湯を流し、箒のように見える竹の細枝を束ねた部分を伝わせ、お湯を下に落として温度を下げる仕組みです。単純な作りで耐久性もあり、これを通すだけで温泉を冷ますための水をかなり節約できるのだそうです。
開化亭へ。
ランチタイムは喫茶を行っていないそうで、軽いのはコーヒーだけとの案内でした。
そもそもチョコレートが目当てだったので、私には何の不都合もございません。
岡田美術館が扱っているチョコレートはとても良いもので、以前、チョコレートだけを買いに来たことがあるくらい気に入っています。今回のは光琳の菊図屏風モチーフのボンボンショコラでした。ガラスの器ごと冷蔵管理されているのでしょう。冷えた状態で出されたので、もどかしい思いで温度が戻るのを待ちました。中は二層になっていて、ノアゼットのチョコレートとクルミのビターチョコレートが入っています。上質なミルクチョコレートのエンベロープも大変薄く、繊細な作りです。コーヒーよりも紅茶の方が合ったかもしれません。
庭の景色も見事です。
お池に目立たないようにワイヤーが張られているところを見ると、金魚や小さな鯉を狙ってサギが来るんでしょう。
本当は滝のあるところまで庭園を歩きたかったのですが、雨に濡れた草を払いながら歩くのが嫌だったので、前回に引き続き今回も断念しました。
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