「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」展@東京国立近代美術館
水鳥達を眺めながら、皇居のお堀をぐるりと回ります。
辿り着いたのは、東京国立近代美術館。
前々から気になっていた熊谷守一の画を見に行きました。以前、豊島区立熊谷守一美術館の写真を見たことがあり、その入口にあった蟻の画が、やけに好みで気になっていたのです。明るい色調が神坂雪佳あたりを連想させるからかもしれません。
以下、気になったものをメモとして残します(所蔵表記のないものは個人蔵)。
第二章 守一を探す守一(1920-50年代)
この時期熊谷は、絵具を厚く塗り重ねる技法を用い、多くの裸婦像を描いています。 また千葉、長野、故郷岐阜、 山形など山や海に出かけ、風景画を制作しました。 こうした裸婦像や風景画の中から、次第に、くっきりした輪郭線と色の面による戦後の作風がかたち作られました。 また、この頃に描かれた膨大なスケッチは、戦後の作品にも繰り返し使用され、熊谷作品の土台を成すものとなりました。 油彩以外に書や水墨画を手掛けるようになったのもこのころです。
38《夜の裸 1936(昭和11)年 油彩・板 23.5×33.0cm 岐阜県美術館委託》
夜の風景に、横たわる女を描いたもの。逆光をヒントに赤い輪郭線を明確に描いている。
48《谷ヶ岳 1940(昭和15)年 油彩・板 23.8×33.0cm 茨城県近代美術館》
赤い輪郭線を伴う山の風景を描いたもの。38《夜の裸》に描かれた赤い輪郭線を反転させている。熊谷守一は「裸婦を見ると風景が描ける、風景を見ると裸婦が描ける」と言っていたそうだ。
54《谷合ノ朝 1942(昭和17)年 油彩・板 33.0×23.7cm 愛知県美術館 木村定三コレクション》
水色の空に朝日の光を鮮やかな黄色で表し、山間から上がる朝日を描いたもの。熊谷守一の特徴のひとつである、明るい色調が明確に現れている。意匠化が進み、色数が減少している。
57《海 1947(昭和22)年 油彩・板 23.9×32.6cm》
灰色の空の海岸を描いたもの。補色を使い画面に軽やかさが感じられる。
78《引潮 1951(昭和26)年 油彩・板 23.5×33.1cm 愛知県美術館 木村定三コレクション》
熊谷守一は自分の画をトレースして、同じ構図で何枚も別の作品を作った。この作品は71《太海》と同じ風景で、引き潮のため、海の中に新しい岩がある。
87《御嶽 1953(昭和28)年 油彩・板 31.6×40.8cm 公益財団法人 熊谷守一つけち記念館》
補色を巧みに組み合わせて描かれた風景画。水色の空、茶色の雲、紺色の山、黄緑の草原。これの他に88《木曽御嶽》と92《御嶽》が並べて展示してあった。同じ構図で山の時間の変化を描いた。
第三章 守一になった守一(1950-70年代)
戦中から戦後にかけ、くっきりした輪郭線と色を特徴とする、もっとも広く知られる画風が完成しました。 70代でからだを壊し、以後自宅からめったに出ず、主に庭の花や虫、鳥など身近なものを描くようになります。しかしこうしたモチーフのいくつかは、すでに1940年代に描かれたスケッチの中に登場しており、長期にわたってねばり強く関心が持続する熊谷の制作の特徴がうかがえます。
96《ハルシャ菊 1954(昭和29)年 油彩・板 31.3×41.0cm 愛知県美術館 木村定三コレクション》
背景に緑青色、その補色の赤橙を地面に使い、黄橙色のハルシャ菊を描いたもの。地面には一匹のカタツムリ。
104《水仙 1956(昭和31)年 油彩・板 33.3×24.0cm 愛知県美術館 木村定三コレクション》
机の上のコップに刺した水仙を描いたもの。コップの中の水の反射と、水仙の茎の屈折が目を引く。背景が明るいので赤い輪郭線が目立つ。同じ構図で、赤い輪郭線が強調された105《水仙》と並べて展示されていた。
109《青柿 1957(昭和32)年 油彩・板 24.2×33.0cm メナード美術館》
水色の背景に青柿の生る柿の枝が描かれている。背景の補色となって赤い輪郭線が浮き上がり、意匠化された形の面白さが強調されている。
110《石亀 1957(昭和32)年 油彩・板 53.0×40.9cm 愛知県美術館 木村定三コレクション》
池を泳ぐ二匹の石亀。やわらかな陽射しをパステルトーンで描いている。
可愛らしい画で、このまま絵本になりそう。
124《稚魚 1958(昭和33)年 油彩・板 24.0×33.2cm 天童市美術館》
5匹の稚魚が泳ぐ。紫色の一匹は深さが違うのか。海外作家から構図や色の影響を受けて作られたと思われる作品の例としてアンリ・マティスの《ダンス(Ⅱ)》に着想を得たものとして、紹介されていた。
127《豆に蟻 1958(昭和33)年 油彩・板 24.3×33.4cm》
ベージュの背景に双葉を伸ばそうとしている豆と、五匹の蟻を描いたもの。芽を出す豆に比べて蟻が大きく描かれている。熊谷は地面に頬杖をついて蟻をよく観察したと言われている。「蟻は左の二番目の足から歩き出す」と言ったとか。
私にとって蟻は、触覚がとてもよく動いて足以上に目立つ印象があるが、この画では、触覚が極端に小さく描かれている。熊谷は蟻の足の動きが気に入っていたのだろう。
137《眠り猫 1959(昭和34)年 油彩・板 24.3×33.4cm》
青の背景に丸まって眠る鯖猫を描いたもの。裏白の顎の白さから桃色の鼻の愛らしさに視線が誘導される。
174《朝日 1964(昭和39)年 油彩・板 40.9×31.8cm》
粘菌のような黄色い光。
177《瓜 1965(昭和40)年 油彩・板 31.8×41.0cm 愛知県美術館 木村定三コレクション》
お盆の上に大小4色の瓜が置かれている。熊谷は補色を巧みに使い、画面の明るさを保った。
180《猫 1965(昭和40)年 油彩・板 24.1×33.3cm 愛知県美術館 木村定三コレクション》
本展のメインビジュアル。板の色そのままのような朽葉色の背景に、腹を床につけて眠る三毛猫が、赤い輪郭線を伴って描かれている。
184《黒つぐみ 1966(昭和41)年 油彩・板 33.0×24.0cm》
茶色の背景に白黒の体色の小鳥が描かれている。鳥の大きく開いた嘴と目が愛らしい。クロツグミのアイリングは黄色だが、ここでは赤く描かれている。
185《宵月 1966(昭和41)年 油彩・板 33.2×24.0cm 公益財団法人 熊谷守一つけち記念館》
青い背景にシルエットで描かれた木の幹と枯れ葉。その間に上弦の月が浮かぶ。幹の立体感の面白さ。枯れ葉が蝙蝠が逆さ吊りになっているように見えて、妖しい雰囲気がある。
190《朝のはぢまり 1969(昭和44)年 油彩・板 24.3×33.4cm 岐阜県美術館》
三重の同心円を塗り分けた画。黒の背景に赤い輪郭線を伴って、外側から水色黄色白に色分けされている。
194《夕映 1970(昭和45)年 油彩・板 24.3×33.4cm 岐阜県美術館》
三重の同心円を塗り分けた画。黒の背景に赤い輪郭線を伴って、外側から橙紺茶に色分けされている。
若いときからの作品を順に観たので、熊谷守一の特徴である赤い輪郭線の出現、明るい色調への変化、意匠化の過程が見えるようで面白かった。第二章の途中から、好きな画が俄然増えてきて、第三章になると、どれも部屋に飾りたくなるものばかり。海岸の風景や蟻などが特に目に残りました。自分が日本画好きなこともあって、琳派の意匠化に西洋画の明るい色調を取り込んだようなといった印象を受けました。
眺めのよい部屋で一息。
本当は所蔵品展を観ようかと思ったのですが、併設のレストランは予約でいっぱいだったし、カフェタイムまで一時間ほど待たなくてはならないようだったしで、寒風吹きすさぶ中で自動販売機のコーヒーを飲む他に方法がなく、ハイライトコーナーだけ眺めて終わりにしました。ここは長時間楽しめる施設ではないのが残念です。
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