日本美術の流れ@東京国立博物館 本館
上野公園噴水前広場にTOKYO数寄フェス2017のインスタレーションがありました。
《プラテネス ―私が行きたようにそれらも生き、私がいなくなったようにそれらもいなくなった― 大巻伸嗣》
上野公園ができる前にあった寛永寺をイメージして、寛永寺の山門「文殊楼」をモチーフにして作られたものだそうです。
開館直後だったので、運慶展をお目当てにしている人が正門前に列をなしていました。東博に入場するのに行列に並んだのは初めてです。
この後、構内に平成館に向かって大きな列が伸びました。
今回、前記事にあるとおり企画展の展示替えに合わせての訪問でしたが、常設展示の展示替えもあったので、そちらの気になったものをメモとして残します(◉は国宝、◎は重要文化財、◯は重要美術品)。
本館 3室 仏教の美術―平安~室町
釈迦入滅の場面を描いた涅槃図は、2月15日に釈迦への報恩と追慕のため行われる涅槃会で用いられた。忉利天から駆けつける生母の摩耶夫人をはじめ、多くの菩薩や仏弟子たちが描かれる。中世以降は動物が増えるのが特徴で、本図では50以上の生物が描かれている。
80歳になった釈迦は四季が近づいたのを自覚しながら布教を続け、インド北部クシナガラ村のバッティ河畔で力尽きた。満月の夜、沙羅双樹の花の下、宝床に頭を北に顔を西に右手を枕にして横たわる。枕元の木に錫杖と括り付けられた衣鉢袋がぶら下がっている。釈迦は、アーラーラ・カーラーマ仙人の弟子プックサが供養した金色衣をまとっている。
右上には阿那律尊者の先導で、忉利天から生母の摩耶夫人が駆けつけている。
嘆き悲しみ気絶した阿難尊者を介抱するため、顔に水を注ぐ阿泥樓駄。右上、宝床の前にいる双髻の童子は迦葉童子である。阿難尊者は眉目秀麗だったとされ、涅槃図でも美しく描かれる。
十大弟子、菩薩、帝釈天、四天王、八部衆らが宝床を囲む。
四十五年の旅をいたわり釈迦の足をさすろうとしている老女は、須跋陀羅と呼ばれる齢百二十の比丘。
難陀龍王や跋難陀龍王など、龍王の姿がある。
嘆き、泣き崩れる執金剛神と密迹金剛神。
52種類の霊獣や生き物も手を合わせている。
龍の左にいるのは犀。釈迦の言葉「犀の角のようにただ独り歩め」のあの犀です。犀は、鹿のような体で背中に亀の甲羅を乗せた姿をしていて、水辺に住むとされる幻獣。
《文殊菩薩像 1幅 鎌倉時代・14世紀》
文殊菩薩は優れた智恵を象徴する菩薩。普賢菩薩とともに釈迦如来の脇侍(きょうじ)として造像されほか、単独でも信仰の対象になった。右手に持つ剣は、迷いを断ち切る智恵のシンボル。硬さのある描写や、緑と茶色を主体とした色彩感覚に時代の特徴が現れている。
文殊が独尊像の場合は、獅子の背の蓮華座に結跏趺坐し、右手に智慧を象徴する利剣、左手に経典を乗せた青蓮華を持つ。獅子座は無畏、経巻利剣は智慧を開き無明を破ることを意味している。密教では清浄な精神を表す童子形となり、髻を結う。この髻の数は像によって一、五、六、八の四種類があり、それぞれ一=増益、五=敬愛、六=調伏、八=息災の修法の本尊とされる。
彩色も美しく、細やかな截金で装飾されている。愛嬌のある表情の獅子は緑の豊かなたてがみがある。足元には四色の花。牡丹でしょうか。表装の中廻しも獅子柄です。
《不動三尊像 1幅 室町時代・16世紀》
不動明王は右手に降魔の三鈷剣、左手に羂索を持って岩の上に立つ。その左に矜羯羅(こんがら)、右に制多迦(せいたか)が配される。
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矜羯羅は両手を上げて仰ぎ見る姿、制多迦は左手に金剛棒を持って、岩に頬杖をついていたずら小僧のような表情で描かれ、親近感のある表現になっている。こうなると、最初は憤怒相に見えた不動明王が、困りはてた顔に見えてくるのが面白い。
(部分拡大)
《子島荒神像 1幅 室町時代・16世紀》
子嶋寺は奈良県高市郡高取町にある高野山真言宗の寺院。平安時代中期作の国宝・両界曼荼羅図(子島曼荼羅)を伝えることで知られている。平安時代中期頃に一時衰退したが、子島流の開祖である平安時代中期の僧・真興(しんごう)が入寺して中興した。
本図はいわゆる三宝荒神を描いたもので、日本古来の荒魂に、古代インドに源泉をもつ夜叉神の形態が取り入れられた異形の神仏習合画。唐服をまとった四臂の俗体神像形の荒神像が、水中に立つ岩に座した姿で描かれる。手に五鈷杵と五鈷鈴、輪宝、宝珠を持つ。左右に鬼神形の二眷属が描かれている。
《泥塔経 17個 出土地不詳 平安時代・12世紀》
粘土で型を用いて作った梵字入りの小塔に、文字を線刻した素焼きの供養塔である。平安時代以降、泥塔を集めて塚とし、これを供養することで願い事をかなえようする泥塔供養が流行した。その作法が記された経典もあり、密教と深い関わりがあると思われる
《一字宝塔法華経巻第一(心西願経) 1巻 京都・安楽寿院伝来 平安時代・12世紀》
紺紙に銀泥で縦横の罫線を引いて、五輪塔形の宝塔を描き、その水輪部に金字の経文を1字ずつ温和な書風をもって書写する。長寛元年(1163)6月、心西が願主となり自身の往生極楽を願ったもので、年紀および願意の明らかな院政期の一字宝塔経の遺例である。
本館 3室 宮廷の美術―平安~室町
京都六角大宮の屋根葺地蔵の名で親しまれた星光寺の本尊、地蔵菩薩の由来と霊験を描いた絵巻物。
星光寺建立の発願者・山城守平資親の邸内(巻上・段1)。牧谿様の竹林図と猿猴図の襖が見える。加えて資親の寝所(巻上・段3)に立てまわした芦鶴図も水墨画である。やまと絵系の絵師たちの水墨技法習得の状況がうかがえて興味深い。屏風には、すでに2扇ごとの縁取りがなく、連続した大画面を構成している。
展示画面は以下の通り。資親の邸内で、ある僧が東山にある地蔵菩薩の古い蔵について資親に語る。資親が僧とともに地蔵菩薩に拝しに東山を目指す。茨の茂の中に地蔵菩薩の坐像を見つける。資親が寝所で衾を被って寝ていると、その夢枕に一人の貴僧として地蔵菩薩が現れる。翌日、井戸端の石の上に地蔵菩薩の足跡が残っているのを見つける。三間四面の堂に安置された地蔵菩薩坐像を人々が拝む。地蔵菩薩に尼が筆を奉る。大風で被害を受けた尼の家の屋根を、若法師たちが葺き替える。散乱した木材の後片付けや修繕の手を休めて、法師たちを羨ましげに見る隣人たち。
本館 3室 禅と水墨画―鎌倉~室町
布袋は中国の四明山に住んだ五代・後梁の禅僧で、常に袋をかついで喜捨を求め歩き、弥勒菩薩の化身といわれた。利光は伝記不詳の画家。布袋の傍らには花を捧げ持つ唐子と、布袋の服の袖を頭に被る童子がおり、それを布袋が微笑みながら見ている。
うずらは中国および日本において縁起のよい鳥とみなされ、しばしば描かれた。長春花は四季を通じて咲く園芸植物である。賛者の景徐周麟は室町時代に活躍した臨済宗夢窓派の禅僧で、学僧として著名である。ふと立ち止まり、花の方を振り返るうずらの姿勢が興味深い。
啓孫は祥啓(しょうけい)の画風を継承し、関東で活躍した画家。この屏風には、世俗を避けて竹林の下に集い、酒を飲んで交遊したといわれる「竹林七賢」、すなわち中国の魏晋(ぎしん)交代期(3世紀)に生きた阮籍(げんせき)・嵆康(けいこう)・山濤(さんとう)・向秀(しょうしゅう)・劉伶(りゅうれい)・王戎(おうじゅう)・阮咸(げんかん)の7人の名士が描かれている。
この日、2階のラウンジでは、日本文化を代表する書に親しむワークショップが開かれていました。
寸松庵色紙に筆ペンで文字を書き、写真にある印のシールを貼って完成というもの。
先日の着物体験といい、最近の東博は海外からの訪問客をターゲットに、日本文化体験施設的な試みを増やしているようですね。
本館 18室 近代の美術
奪衣婆(だつえば)に衣服を剥(は)がされた亡者(右上)が閻魔大王の前で審判を下され(中央)、さまざまな責め苦を受けながら地蔵に救われる光景(左上)が描かれている。暁斎は、はじめ浮世絵を学び、狩野派の画風をも習得して、とくに風刺画や戯画に個性を発揮している。
(部分拡大)
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伝統的な四季花鳥図のモチーフを用いた画面構成でありながら、遠近や立体感を生み出している。是真は、幕末から明治初期において、蒔絵師としても絵師としても活躍した。ウィーン万国博覧会をはじめ、国内外の様々な博覧会で数々の賞を受けている。
芭蕉、萩、菊などが秋の気配を画面に満たす。少女の容姿は、当時、雑誌の口絵などで大流行した当世の美少女の典型である。幼い少女とも、編み物をする姿に恋心を寄せる年頃の娘にもみえる不思議な描写となっている。
《英名二十八衆句 村井長庵 1枚 落合芳幾筆 江戸時代・慶応3年(1867)》
歌舞伎の殺しの場面を題材にした揃物。兄弟子の芳幾(よしいく)が十四図描き、残り半分を芳年が担当した。題名にある「衆句」は、天球を区分して、星座の所在を明らかにした二十八宿をもとに各人をあらわし、仏教で多くの苦痛をあらわす衆苦(しゅうく)に語感を通じさせている。
村井長庵は歌舞伎『勧善懲悪覗絡機関』の主人公で、医術よりも奸計で世を渡る。貧に詰まって娘を吉原に売った姉婿重兵衛を、その帰り道に待ち伏せし、菅笠の上から斬り殺して金を奪い、自分の患者に罪をなすりつけた。句は「 夕立に思ひ切たる野中哉 鳥酔」。
《英名二十八衆句 笠森お仙 1枚 月岡芳年筆 江戸時代・慶応3年(1867)》
養父の刃にかかったお仙。顔や足に血染めの手跡が付き、抵抗し逃げ惑う姿が描かれる。句は「蕣の花ふきやふる嵐かな 木因」とある。
普段は軽く通り過ぎることが多い仏画のコーナーですが、今回はなぜか妙にはまって、面白く見ることが出来ました。運慶展などを通して、ようやく知識が追いついてきたのかもしれません。
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