若冲、琳派、かざりと雅 京都・細見美術館名品展@愛媛県美術館
GW中は別府と道後の温泉めぐりをしていました(その様子はこちらで)。道後温泉に行く途中、松山市内で愛媛県美術館に寄り道しました。
お目当ては細見美術館名品展です。
若冲、琳派、かざりと雅 京都・細見美術館名品展
“日本美術の教科書”とも称されるほどに、幅広い年代と分野で構成される優れた古美術コレクションで知られる京都・細見美術館。とりわけ近年高い人気を誇る伊藤若冲と琳派の作品群は国内屈指の質量を誇ります。本展は、細見美術館コレクションから選りすぐった、重要文化財7件を含む名品約80件を、愛媛の地で初めて紹介するものです。若冲、琳派をはじめとする古代から近代までの書画、仏教美術、茶の湯の美、蒔絵・七宝といった工芸品など、数々の魅力的な作品を通して、心ゆくまで日本美術の粋を堪能していただければ幸いです。
地理的に京都を飛び越えたこの地で見るのは変な感じですが、なんたって選りすぐりなわけですから、この機会を逃すわけにはいきません。別府から移動した後で疲れもありましたが、ここは気分を入れ替えてしっかりと鑑賞します。
以下、気になった作品を記します(◎は重要文化財、◯は重要美術品)。
第1章 日本美術の教科書
2《鹿型装飾付はそう 伝奈良県内出土 古墳時代後期》
鹿型の容器で背に杯がついている。まるで鼠のような顔。はそうは半挿とも書く。須恵器の一つで胴部に小さい孔がある。水差しと考えられている。
3《白描伊勢物語絵巻断簡(梵字経刷) 鎌倉時代後期》
画の上に梵字で光明真言を木版で刷ってある。経供養のために作られたもの。伊勢物語95段の彦星の場面。右に25段が継いである。
4《○虎渓三笑図 仲安真康 室町時代》
山中の深い谷にかかる橋。それを渡りきったところにいる三人。中央の慧遠法師が来客の二人の肩に親しげに手をかけ、三人とも大いに笑っている。
虎渓三笑とは、何かに夢中になって他のことを忘れてしまうこと。盧山記にある話。中国浄土教の開祖慧遠法師は来客を送る際、精舎の下の虎渓という谷川でまでと決めていたが、詩人陶淵明と道士陸修静を見送る際に話に夢中になって虎渓を越えてしまい、虎のほえる声を開いてそれに気づいて、三人とも大笑いをした逸話。
仲安真康(ちゅうあんしんこう)は室町時代の禅僧。
5《○梅花小禽図 単庵智伝 室町時代》
白梅の枝に止まり、天を仰いで囀る小鳥の画。横に広がりぎみな花の形が特徴的。
単庵智伝(たんあんちでん)は室町時代の絵師。相阿弥の弟子で、喧嘩で若死にした。
6《◎羅什三蔵伝絵巻 室町時代》
中国に渡り経典を翻訳して仏教普及に貢献した鳩摩羅什(くまらじゅう)の生涯を描いた絵巻。展示されていたのは、海を渡る羅什。暗雲が立ち込め、荒れ狂う海には龍の姿がある。その左には、仏を背負う羅什の父、鳩摩羅炎(くまらえん)が如来を背負う姿がある。霞がかかり、桜、松がある。周りは女や従者。先に進むと、今度は如来が羅炎を背負っている。これは、今昔物語集の巻第六 震旦付仏法にある、鳩摩羅炎が仏教普及のために仏像を盗み出す場面と思われる。
10《源氏物語図色紙「初音」 土佐光吉 桃山時代》
金箔を贅沢につかった色紙。色も鮮やかに残っている。吹抜屋台の屋敷は美しい調度品が並べられ、畳の上には貴重な本や琴が置かれている。庭には梅が咲いている。これは源氏物語23帖、正月に源氏が明石の君を訪ねる場面。
11《四条河原図巻 江戸時代前期》
展示されている場面は、喧嘩の場面から始まり、幕で仕切られた舞台では歌舞伎が行われ、通りを挟んで、相撲に盛り上がる様子も描かれている。通りには心太か蒟蒻なのか串に刺したものを売る店がみえる。四条河原とは四条通の鴨川のこと。
12《遊楽図扇面 江戸時代前期》
扇形の料紙に四季の行事を描いた四枚。宴会、弓射、紅葉狩り、囲碁と楽しい様子が描かれる。中でも宴会の場面はとても享楽的で、頭に碁盤や島台(食台)を乗せて踊っている。
13《北野社頭図屏風 「椋政」印 江戸時代前期》
金地彩色の豪華な屏風。六曲一隻だが一扇がなかった。梅が咲く北野社で流鏑馬、蹴鞠、囲碁、野点をする様子が描かれている。北野社は梅の名所として知られる。椋政が誰なのかは不明。元は東京国立博物館所蔵の四条河原図屏風との一双だったそうで、桜の名所と梅の名所を描いたもの。
14《児島湾真景図 池大雅 江戸時代後期》
手前に小屋、小高い山があり、山際を歩く人の姿が見える。山の先には小舟が浮かぶ穏やかな海が広がっている。海を挟んで遠くに山々が望める。小島湾は岡山県南部児島半島の東部にある湾。瀬戸内海の暖かい日差しと穏やかな海が感じられる画。
16《花卉虫魚図画帖 椿椿山 江戸時代後期》
展示は菜の花と蜂を描いたもの。菜の花は開花、鞘、実がはぜたものが描かれ、博物学的視点がある。椿椿山(つばきちんざん)は渡辺崋山の弟子で江戸後期の文人画家。
17《夜鷹図 葛飾北斎 江戸時代後期
月夜、柳の下にたたずむ夜鷹。空には二匹の蝙蝠が飛ぶ。夜鷹は頭に手ぬぐいを垂らし、黒い着物にだらり帯。和傘を抱えて、高下駄を履いている。背中を軽く反らした後姿で描かれている。かっこいい。雅号、宗理(二代目俵屋宗理)の頃の作品。
19《○年中行事図巻 冷泉為恭 江戸時代・天保14年(1843)》
絹本彩色の絵巻。青い霞の中、宮中の年中行事が描かれている。展示部分は曲水の宴の部分。桜の下で公達が水に盃を浮かべて和歌を詠んでいる。桃の木を挟んで野菜が並べられた祭壇がある。
冷泉為恭は幕末期の公家召抱えの復古大和絵の絵師。狩野家の出身。王朝文化に深く傾倒して冷泉と名乗ったが、公家ではない。
第2章 若冲、繚乱。
20《雪中雄鶏図 伊藤若冲 江戸時代中期》
雪の中、盛んに地面を啄ばむ雄鶏の姿。湿った雪の重さにしなる竹や野菊。金泥のグラデーションが効いている。署名は、字の景和。まだ若冲と名乗っていない三十代の頃の作品。
21《虻に双鶏図 伊藤若冲 江戸時代中期》
水墨画。丸いフォルムの鶏の番。虻を見上げて雌鳥が頭を反らしている。背を向けた雄鶏は尾羽を濃い墨で勢いよく描き、手前の雌鳥は筋目描きで細やかに羽毛を描いている。構図と技巧の両方が楽しめる画です。
22《風竹図 伊藤若冲 江戸時代中期》
一幅の水墨画。強風にゆれる竹を描いたもの。擦れる竹の葉、振動する音が聞こえてきそうな描写。漫画の疾走表現のぐるぐるを連想した。
23《鶏図押絵貼屏風 伊藤若冲 江戸時代・寛政9年(1797)》
鶏の様々な姿形を描いた六曲一双の押絵貼屏風。早い筆運びで描かれた尾羽が目を引く。背景はほとんどないため、雄鶏の躍動感あるポーズが引き立つ。
24《仔犬に箒図 伊藤若冲 江戸時代中期》
禅の公案狗子仏性が画題で箒にじゃれる白い仔犬が描かれている。賛は無染淨善(おうばくむせん)の漢詩を模して龍門承猷が書いた。狗子仏性を画題にした若冲の絵は、これの他に《厖児戯箒図(ぼうじぎほうず) 鹿苑寺所蔵》と《箒に狗子図 個人蔵》が知られている。
百犬図もそうだけど、若冲の仔犬はあまり可愛らしさがないなあ。
25《瓢箪・牡丹図 伊藤若冲 江戸時代中期》
二幅の水墨画。平たく葉を広げたその下に、細長く垂れ下がる瓢箪。葉の間や実の細いところにくるくると巻髭がみえる。瓢箪は輪郭だけで描かれて軽やか。一方の牡丹は力強く、薄墨で花を濃墨で葉が描かれている。花の近くを舞う蝶が対照的に軽ろやか。瓢箪の賛は天龍寺の桂州道倫、牡丹は嵯峨直指庵住持、無染淨善による。
26《鼠婚礼図 伊藤若冲 江戸時代・寛政8年(1796)》
左上には婚礼中の鼠たち。右下には盃をお腹に抱え仰向けになった鼠。もう一匹に尻尾を引かれて宴会に向かう。擬人化された鼠の姿がユーモラスに描かれている。落款は、米斗翁八十一歳画。
27《伏見人形図 伊藤若冲 江戸時代中期》
明るく童話的な色調。若冲は、伏見稲荷の土産物として知られる伏見人形を好んで描いた。布袋の肌には雲母が用いられて、人形の質感の表現に工夫がみられる。絵の具以外の素材を混ぜることで質感を表現する試みは、この頃ではとても珍しいことだと、山種美術館で聞いた。
28《関羽図 伊藤若冲 江戸時代後期》
髭を蓄えた、体の割りに大きな顔の男。表情は険しく、髭を撫でながら何か思案しているような表情。髭殿とも呼ばれる程、見事な髭を持っていたとされる関羽。この絵は、まるで髭が描きたくて関羽を描いたかのようにも見える。
第3章 祈りのかたち
32《絵因果経断簡 鎌倉時代》
仏教経典のひとつ、過去現在因果経の写本の一種。上段に絵、下段に経文が描かれている。御輿を持つ従者に牛車が連なり、身分の高い人物の旅の姿が描かれている。中央の岩山を越えたところにいる赤い着物で座禅をする人物が釈迦。その近くには身を地面に投げ出し、最敬礼である五体投地をしている弟子の姿がある。
33《◎線刻十二尊鏡像 平安時代後期》
中世には神仏習合の宗教観が定着し、神道と仏教の両方の要素を併せ持つ造形が多くつくられた。本品は、神の寄り代である鏡に仏の姿を描いて御正体としたもの。八稜鏡に四人の如来、それを囲むように八人の菩薩が描かれている。背面には花唐草文や鴛鴦が描かれている。
34《◎熊野十二社権現懸仏 鎌倉時代後期》
神仏習合時代の御正体で、熊野十二社を仏の姿で表したもの。中央の目立つ三体は左から千手観音、阿弥陀仏、薬師如来で、それぞれ那智、本宮、新宮を現す。髪、目、髭が墨で塗られ、口には紅が注されている。ガラス球の瓔珞など細やかな造形がある。しかし、数えてみると十三体ある。本宮と新宮では十二尊を祭っているが、那智では十二尊の他に滝宮が追加されて十三尊を祭っていることから、この品は元は那智に奉納されていたものと推定されている。
38《◎羽黒山御手洗池出土銅鏡 平安時代後期》
羽黒山出羽神社の御手洗池から出土したもので、羽黒鏡と呼ばれている。鏡胎が薄く、背面に松、菊、水草、鶴、雀、千鳥など日本の自然風景に見られる鳥や植物がやわらかな調子で表現されている。
第4章 茶の心、かざり
39《◎芦屋霰地楓鹿図真形釜 室町時代》
芦屋釜(現在の福岡県遠賀郡芦屋町で鋳造された茶釜)の名品。丸みのある真形釜(しんなりがま)で、鈕(つまみ)は鳥居の形で鐶付(かんつき)は鬼面。表面に細かく連続した地紋がある。楓の下で飛び回る三頭の鹿。その裏には樹下に佇む二頭の鹿が刻まれている。
41《消息 釜の文 千利休 桃山時代》
六十代半ばの利休が、注文していた釜、蓋、鐶、弦などの納品に添えて書いた手紙。釜の底が一段と美しく鋳掛けられて喜ばしい、またもし気に入らないことがあれば直させるとある。
43《黒織部沓形茶碗 江戸時代前期》
歪んだ口がいかにもといった黒織部。白く釉薬のある部分に音波のような模様がある。
47《武蔵野蒔絵煙草盆 江戸時代前期》
蓋に千鳥、側面には満月と秋草が蒔絵で描かれている。
48《秋草鹿蒔絵文台 桃山時代》
細い下弦の月の下に雄鹿、薄などの秋草が茂り、その傍らに雌鹿が佇む。深夜の静かな光景。
49《桐竹鳳凰図屏風 桃山時代》
六曲一隻の金地彩色の豪華な屏風。竹と桐の元に雌雄の鳳凰が描かれている。
第5章 花開く琳派
58《忍草下絵和歌巻断簡 本阿弥光悦(書)、俵屋宗達(下絵) 江戸時代前期》
俵屋宗達の絵の上から、本阿弥光悦が、新古今和歌集にある藤原有家朝臣の歌「山かげや さらでは庭に 跡もなし 春ぞ来にける 雪のむらぎえ」を書いたもの。金泥で薄と忍草を、藤は金泥、銀泥を使った木版。
59《双犬図 俵屋宗達 江戸時代前期》
戯れる白と黒の二匹の仔犬。白犬は輪郭線と外隈で、黒犬は彫塗りとたらし込みで虎毛のように描かれている。賛は、無染浄善が、宗達没後に記した。
60《伊勢物語図色紙「大淀」 俵屋宗達 江戸時代前期》
金雲、海、松に大きく隔てられて、男と女が対峙する。伊勢物語の第七十五段「大淀の浜に生ふてふみるからに 心はなぎぬ語はねども」の場面。男の逃避行の誘いを断る女の心を詠ったもの。
64《寿老鹿鶴図 渡辺始興 江戸時代中期》
梅下に抱一鶴と鹿、従者の子供を連れた寿老人が描かれた吉祥図。寿老人は七福神の一人で、長寿を記した巻物と鹿を従えてよく描かれる。
65《花卉図画帖 中村芳中 江戸時代後期》
展示は、姫百合、桃、蕨、白梅。芳中の特徴的な丸っこいフォルムが愛らしい。
長く見たかった芳中の絵に会えて、嬉しくて声が出そうになりました。特に蕨の愛らしいこと。まるでチンアナゴです。芳中はいいなあ。大きな展覧会してほしいなあ。
66《扇面貼交屏風 中村芳中 江戸時代後期》
四曲一隻に十二扇面を貼り付けた屏風。竹、紅葉、菊、桜などの華やかな植物の他に茸や大根もある。
67《桜に小禽図 酒井抱一 江戸時代後期》
月次の花鳥を描く十二図の内の一図。薄墨を引いて花曇りを演出している。たらし込みで描かれた太い幹から垂れてS字に曲がる枝。華やかに咲き誇る桜。その枝に止まる大瑠璃の青が映える。賛は、漢学者亀田鵬斎の子、綾瀬のもの。抱一最晩年の名作。サントリー美術館の其一展で冒頭に飾られていたのが印象に残る。
68《鹿楓図団扇 酒井抱一 江戸時代後期》
金地の団扇の表には萩と鹿、裏に紅葉が描かれている。画題は、百人一首の猿丸大夫が詠んだ「奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき」による。
69《扇面貼交屏風 酒井抱一 江戸時代後期》
扇面が貼られた六曲一双の屏風。扇面に描かれているのは、鯉、蝶、水仙、菜の花、石灯籠、富士山、亀、兎と様々。扇面は屏風全体にランダムに貼られていて、風で舞っているように見える。
71《文読む遊女 鈴木其一(画)、酒井抱一(賛) 江戸時代後期》
抱一と其一の師弟合作。体を投げ出した休憩中の吉原の遊女を描いたもの。
72《水辺家鴨図屏風 鈴木其一 江戸時代後期》
金地の六曲一隻の屏風。水辺に遊ぶ様々なポーズをとる九羽の家鴨。家鴨の丸い体つき、表情が生き生きと写実的に描かれている。その一方で水の表現は琳派の意匠が取り入れられている。
73《江戸近郊八景図画帖 池田弧頓 江戸時代後期》
池田弧頓は抱一の弟子で、兄弟子其一と並ぶ高弟。展示は、小金井橋夕照、行徳帰帆、芝浦晴嵐、 吾嬬夜雨の四景。
75《紫陽花図 酒井道一 明治時代》
細やかに描かれた紫陽花。葉のグラデーションが実に美しい。酒井道一は其一の弟子。抱一の画風に傾倒し、抱一の養子である酒井鶯蒲の養子になって後を継いだ。
77《四季草花図 神坂雪佳 明治時代末期》
四季の草花を描いた二幅。右幅は春から夏の草花で、立葵、杜若、菫、姫百合など、左幅は秋から冬の草花で、萩、葉鶏頭、桔梗、石蕗などが描かれている。
神坂雪佳は明治から昭和にかけて活躍した京都の図案家。金魚玉図ぐらいしか知らなかったので、ここで見られたのは嬉しかった。
78《『海路』 神坂雪佳 明治35年(1902)》
波と水のデザインを集めた図案集。
79《『百々世草』 神坂雪佳 明治42年(1909)》
琳派の図案集。《八つ橋》は銀色の橋のたもとに咲く杜若、《牧童》は黒牛の背にもたれて笛を吹く童子、《吉野》は青や緑の山々にかかる春霞を図案化したもの。
81《住之江蒔絵螺鈿色紙箱 神坂雪佳(図案)、木村秀雄(作) 大正時代後期》
松林に鷺が二羽佇んでいる。住吉神社のある住江は松の名所で「岸」にかかる枕詞。
最初、変わった鶴の描き方だなと思ったが、この後に道後温泉に行って、これが鷺だとわかった。頭に冠毛があるのはコサギの夏毛。
さすが名品展。見ごたえがありました。 展示室内は校外学習と思われる高校生らのメモを取る姿が目立っていましたが、普段都内の美術館に通っている私の感覚では、かなり空いている印象でした。若冲の目立つ作品の前にせいぜい二人並んで見る程度でしたので、どの作品も自分のペースを乱されることなく、ゆっくり鑑賞できました。
展示室を出た後は、愛媛県美術館併設のカフェ the park M’s coffee でクリームあんみつ。
オープンしたてで、店内にはお花がたくさんあって華やかでした。
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