日本刀の科学
先日、静嘉堂文庫美術館で私は無事に日本刀鑑賞デビューを果たしました。
もちろん、私がよく行く東京国立博物館にも刀剣が展示されているのですが、今までは素通りしていたわけです。なぜなら、あそこはあまりにも広大で、興味が薄いところにまで時間を避くわけにはいかないんです。それにも関わらず、夫が日本刀の鑑賞ができるようになりたいなんて言うから、夫に付き合う形で日本刀鑑賞を始めてしまったという。ずっと避けてきたのに。
日本刀を鑑賞する時に地鉄や刃文を観察しますが、私の場合、下手に金属材料としての鉄の知識があるばかりに、鏡面研磨された鉄を見るとつい金属組織へ思いを巡らせてしまって、観察の方向性が変わってしまうのです(この気持ち、材料屋ならわかるでしょ?)さらに言えば、日本刀を神聖視しすぎる方の発言に非科学的なものを感じ取って、自分の中にある科学的真理の追究を第一とする部分と美術を愛する者としての立ち位置がなかなか両立しずらくなることもあるわけで。
逆に、先入観から色々な誤解が生じていた部分があったことは、上記の展覧会に行ってよくわかりました。例えば、刀身の形(長さ、細さ、厚み、切っ先の形、反り)などは刀の重さや強度に関わってくるものだから、使用感の良さがひとつの指針なんだろうと思っていたし、刀文(じんもん)や鍛え肌はその製法によって生まれるものなんだろうと思い込んでいました。でも、違いました。日本刀は美術品だといわれますが、それはその言葉どおりの意味で、あれは造形物なんですね。刀身は実用性を備えつつ美しさをより求めているし、刀文も鍛え肌も反りもそれを作り手が意図して作るものだということです。
前置きがとても長くなりましたが、そんなこんなで、日本刀を科学で切ってみたらどうなるかという本を読みました。物づくりをする視点から日本刀をみる本です。こういうの、大好き。
日本刀の科学 武器としての合理性と機能美に科学で迫る (サイエンス・アイ新書)
- 作者: 臺丸谷政志
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2016/06/16
- メディア: 新書
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とても面白かったです。図表もわかりやすくて刀剣入門書としても優れていたし、私の知りたいところにしっくりはまるという感じでした。焼入れによる刀身の残留応力によって鋼を超える強化機構が成り立っているとか、樋の有無での曲げ強度の比較検証、衝撃応答実験など、実験好きならやってみたいことが網羅されています。これは、たまりません。日本刀を科学の刀でバッサバッサ切っていく筆者の姿はまさに侍のよう。
こんなに爽快な読書感を得たのに、こちらの本の定価は1000円。もっと取っていいんじゃない?
かくして、明らかに美術鑑賞の視点から外れたままですが、静嘉堂文庫美術館の展示とこちらの本で日本刀の魅力に触れることができたので、次回トーハクに行ったら刀剣の展示室も素通りせずに見てみようと思います。
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