日本美術の流れ@東京国立博物館 本館
トークショーの後、長谷川等伯の屏風目当てに本館の常設展にも行きました。
本館 7室 屏風と襖絵―安土桃山~江戸
《◎車争図屏風 4曲1隻 狩野山楽筆 江戸時代・慶長9年(1604)》
(部分拡大)
元は襖絵だったものを4曲1隻の屏風にしたもので、源氏物語の葵の巻、車の所争いを画題としたもの。賀茂川で行われる御禊に出る光源氏の姿を一目見ようと、正妻の葵の上の車が地位と身分に物を言わせて他所の車を立ち退かせます。その相手が六条御息所の網代車(あじろぐるま)だったというシーン。右隻には御禊の厳かな行列があり、左隻には見物の車が並ぶ。左端から二台の車が騒動していて、それを野次馬が囲んでいる。
それにしても車の大きいこと。何人乗せるつもりでしょう。
《◎瀟湘八景図屏風 6曲1双 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀》
(右隻)
(左隻)
瀟湘八景は、中国の洞庭湖で合流する瀟水(しょうすい)と湘江(しょうすい)の名勝を描いた山水図です。北宋の宋迪(そうてき)が、山市晴嵐・漁村夕照・遠浦帰帆・瀟湘夜雨・煙寺晩鐘・洞庭秋月・平沙落雁・江天暮雪の八景を描いたのが元になっている。それを長谷川等伯は六曲一双の屏風にしたところが新しい。
両脇に山々、中央に湖面。右隻の山は荒々しい岩肌を見せる。遠い山には雪。麓には活気のある村が描かれます。右隻5扇の下に網と小船。左隻に移って、1扇に雪山、4扇に雁の群れと六重の塔が見えます。ところごころに水平に施された金泥が奥行きを作ります。左隻の山の麓には暗い靄。雨が降っていそうです。さすがに月は出なかったか。
(右隻部分拡大)
湖畔の村は活気があり人々が行きかいます。村の様子からすると暖かい地域なのかもしれません。村に続く街道にも人の姿が見えます。
本館 8室 書画の展開―安土桃山~江戸
《帝鑑図屏風 6曲1双 狩野山楽筆 江戸時代・17世紀》
(右隻)
(左隻)
帝鑑図屏風は為政者が手本あるいは反面教師とすべき中国の諸帝王の故事集を画にしたもの。右隻には善行、左隻には愚行を描き分けている。となると、当然、面白いのは左隻。
(左隻1扇 部分拡大)
【脯林酒池(ほりんしゅち)】夏の桀王が酒池肉林を築き、太鼓をひつつ叩けば、三千人が酒を飲んだ。
(左隻3扇 部分拡大)
【抗儒焚書(こうじゅふんしょ)】秦の始皇帝が、儒者を弾圧して穴に埋め、書物を焼いた
(左隻5扇 部分拡大)
【妲己害政(だっきがいせい)】殷の紂王が酒色にふけり、后の妲己が背反者に炎上する銅柱の上を歩かせ落下する姿をみて楽しんだ
本館 10室 浮世絵と衣装―江戸(浮世絵)
《紅葉舞 1枚 鈴木春信筆 江戸時代・18世紀》
紅葉の下で軽やかに舞う姿が愛らしい。春信の画は見るほどに好きになっています。
《雛形若菜の初模様・丁字屋内とよ春 1枚 礒田湖龍斎筆 江戸時代・18世紀》
雛形とは見本帳のこと。この絵は、つまり、正月になって初めて着る着物のファッションカタログ。遊女に着物を着せて反物の宣伝に使ったのでしょう。上の春信の画と違って、女の姿態に色気があります。いかにもモード誌的。
《◎書 1枚 歌川豊春筆 江戸時代・18世紀》
歌川豊春は歌川派の始祖。正しい遠近法を習得し、江戸の街を描いた風景画で知られる。
《書》は琴棋書画と言われる、文人や士大夫が嗜むべきとされた四芸(琴、囲碁、書、画)を画題にしたもののひとつ。
《書》には、畳の上で片膝をつき書き散らす女、懐から手を出して煙管を吹かす遊女、二人を襖を開けて眺める若い男。庭には唐物の壷、池の辺に桜が描かれている。
《畫 1枚 歌川豊春筆 江戸時代・18世紀》
《書》との揃い物。手前の花柄の着物を着た女が描いたと思われる画を下女が縁側で掲げて見せている。真ん中の女は長い煙管を手に頬杖をついている。庭には木の幹をくり抜いた水甕。傍らに植わっているのはカズラの一種でしょうか。
(部分拡大)
下女の背後にあるのは、干している画かな。描かれた画が色男なのも面白いです。
《加藤清正虎狩 1枚 歌川国芳筆 江戸時代・19世紀》
加藤清正が人食い虎を退治している。清正が足で虎を押さえているが、虎は槍に噛付いていて、未だ止めを差されてはいない。清正の力強いポーズと虎の柔軟な体の対比、虎の豊かな毛並みに目が行く。
《見立許由巣父図 1幅 川又常正筆 江戸時代・18世紀》
瀑下二美人図とも呼ばれる。崖の上から滝に手を伸ばす女と犬を連れる女が描かれている。これは、皇帝から天下を譲ると言われた許由(きょすい)が潁水(えいすい)で耳のけがれを洗い落としているのを見た巣父(そうほ)が、そのような汚れた水は牛にも飲ませられないとして牛を連れて帰ったという故事。栄貴を忌み嫌うことの例え、許由巣父(きょゆうそうほ)を画題にしている。
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振袖を着る若い女。お顔がきれいで、好みです。
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女が紐を引いて、犬が水辺に行こうとするのを阻止しています。この犬が実にかわいくない。照明が暗くてよく見えなかったんですが、やせ細って骨が浮いたチワワのようで、とてもみすぼらしい。日本画で、こんなにもかわいくない犬は珍しいと思います。
《太夫愛猫図(見立女三宮図) 1幅 桃源斎栄舟筆 江戸時代・19世紀》
女三宮を遊女に見立て、その遊女の足元に擦り寄る飼い猫を描いている。女三宮は源氏物語に登場する光源氏の二番目の正妻で不義の子、薫の君の母。猫のせいで姿を柏木に見られてしまったことが不義のきっかけになる。
(部分拡大)
お顔がきれいです。
(部分拡大)
猫もとても愛らしい。
今回も常設展示を十分に楽みました。今年、東博には何度来ているのか数えられません。疲れている時は本館2階の2室と7~10室だけを回るだけにしていますが、二週間空けると展示が変わっているので、飽きることがありません。いつになったら見尽くした気分になるんでしょうね。恐るべし、トーハク沼。
美しいもので心を満たした後は、お腹も満たしとうございます。東洋館のゆりの木でカツ重。
帰りしなに本館に目を向けると、特別展「平安の秘仏」の仏像たちが東京国立博物館本館壁面に投影されていました。
空にはお月様と宵の明星。
トーハク漬けの一日でした。
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