マジカルアジア@東京国立博物館東洋館

東博の東洋館では、秋フェス「博物館でアジアの旅」が開かれています。今年のテーマは「マジカル・アジア」です。博物館らしからぬ、怪しげな雰囲気に乗せられて、行ってきました。
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以下に気になったものをメモとして残します(◎は重要文化財、◯は重要美術品)。

東洋館地下の12室、13室に特集が組まれているようでしたが、その他の部屋にも関連した展示があるようでしたので、まずはエレベーターで上がって、上の階から観ていくことにしました。

東洋館 5室 唐三彩

造形、装飾ともに卓越した技術で発展をとげてきた中国陶磁。なかでも人物や動物を生き生きと表し、また緑、黄、藍、白などあざやかな色彩で観る者を惹きつける唐三彩に注目します。「博物館でアジアの旅(マジカル・アジア)」に合わせて、人物や空想上の動物、家畜などの姿を表わした明器を中心に、幅広く親しまれた唐三彩の発生から展開をたどり、その魅力を多面的に紹介します。

《三彩馬 中国 唐時代・7~8世紀》f:id:Melonpankuma:20171001193250j:plain
唐三彩は唐代の鉛釉を施した陶器で、主として副葬用に制作された。馬や駱駝は日常生活において荷物を乗せて運ぶのに重宝したため、こうした家畜も墓の主人を守り、死後も不自由なく過ごせるように従者や楽人など様々な俑(ひとがた)と共に埋納された。

《三彩鎮墓獣 2躯 中国 唐時代・7~8世紀》
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墓門を守る辟邪(鹿に似て二角をもち、邪悪をさけるといわれる)の獣。肩に翼を持ち、足先は偶蹄で、岩の台座に座している。猛々しい形相ばかりでなく、たてがみを奮い立たせ、全身から怒気を発散している。口が阿吽の組み合わせ。

《◎三彩貼花龍耳瓶 1口 中国 唐時代・8世紀》
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高さ50センチ近くあり、唐三彩龍耳瓶としては他に例をみない大作。張りのある胴、がっしりとした龍耳は力強く堂々としている。左右に把手が付く器形は、西方に起源がある。胴の三方には型抜きで作られた宝相華文の大ぶりなメダイオンが貼りつけられており、流れて入りまじる三彩釉の効果とあいまって、華麗な趣を与えている。

《三彩女子 1躯 中国 唐時代・8世紀》
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片手に小鳥を乗せた座像の三彩女子俑。ふっくらとした頬、胸から腰の優美な曲線なと健康的な美しさをそなえるだけでなく、衣装に施された丁寧な三彩の花文様が目をひく。類例が陝西省西安東郊の王家墳村で出土している。

《藍釉兎 1躯 中国 唐時代・8世紀》
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目は鋭く、耳は短く、丸々と太った兎。丸い形が子犬のように見える。唐三彩のなかには駱駝や馬のほか、兎、豚、犬のような日常に欠かすことのできない大切な家畜をかたどったものが多くみられる。当時の人々の暮らしを伝える貴重な資料である。

東洋館 8室 中国の絵画 不思議な聖者たち―仙人と羅漢―

「博物館でアジアの旅(マジカル・アジア)」に合わせ、道教・仏教主題の人物画、特に仙人と羅漢の図像を展示します。いずれも、内に秘められた道力・法力あるいは聖性を示すため、常人とは異なる奇怪な容貌で表され、複雑かつ繊細な彩色法で、肉体の実在感が伝わってきます。また、色彩は彼らの衣や背景・器物を華やかに装飾しています。南宋から清にかけての、着色による道釈人物画の発展過程をお楽しみください。

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《◎千手観音図軸 1幅 中国 南宋時代・13世紀》
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四十二臂の千手観音で本面の両側に阿吽の憤怒相をつけている。船形光背を背負い、白雲に乗る姿は理想性と現実性をあわせ持つ。白を貴重とした裳には白と金色で細やかに文様が描かれ、肩からかけられた透き通る条帛(じょうはく)も美しい。四十二臂の意味については、胸前で合掌する2本の手を除いた40本の手が、それぞれ25の世界を救うものであり、25×40=1000であると説明されている。それぞれの手には目があり、杖、化仏、骸骨、蓮、払子などを持っている。 

《◎十六羅漢図軸(第六尊者) 1幅 金大受筆 中国 南宋時代・12世紀》
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金大受は中国南栄の仏画師で、浙江省の寧波で活動した。寧波は日本の貿易船の寄港地であったため、寧波の仏画師の描く羅漢図は多く日本にもたらされたという。
第六尊者は仏陀跋陀羅(ぶっだばったら)という東晋の中国で活動した北インド出身の訳経僧。大般涅槃経や華厳経などを訳した。
羅漢に寄り添う虎の顔が蛙みたいだし、よくみると右足が二本あって気持ち悪い。

《◎十六羅漢図軸(第十一尊者) 1幅 金大受筆 中国 南宋時代・12世紀》
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書を手にする比丘を伴い、奇岩に座す姿で描かれている。第十一尊者の囉怙羅(らごら)は釈迦の実子で弟子の一人。学習第一とも称せられた。
前に揃えられた沓、座す姿が鎌倉時代の頂相を連想する。

《◎十六羅漢図軸(第十五尊者) 1幅 金大受筆 中国 南宋時代・12世紀》
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大石に座り、左手の瓶から現れた龍と退治する尊者。強風に煽られて、尊者の衣を掴み、身を隠そうとする子供の姿が露わになっている。
第十五尊者の阿氏多(あじた)は眷属として1500阿羅漢を有し、鷲峯山に住す。

《◎十六羅漢図軸 (第十六尊者) 1幅 金大受筆 中国 南宋時代・12世紀》
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台に片膝をついて座し、尊者が見上げる視線の先には、鳳凰の姿がある。その横では、従者が果物を剥いている。
第十六尊者の注荼半託迦(ちゅだはんたか)は眷属として1600阿羅漢を有し、持軸山(じじくせん)に住む。周利槃特は釈迦の弟子中、もっとも愚かで頭の悪い人だったと伝えられる。そのため、愚路とも呼ばれた。
愚路と呼ばれると知ってから見ると、まるで介護されているように見えてきた。

《◯寿星図軸 1幅 中国 元時代・14世紀》
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寿老人は長寿をもたらす南極老人星の化身で、乱世では見えず、天下泰平になると姿を現すと言われていた。道教における礼拝対象として描かれたと考えられるが、時代が下がると、長寿や富貴を象徴する鹿や鶴を従えた吉祥画として多く描かれるようになる。

《◎天帝図軸 1幅 中国 元時代・14世紀》
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北斗七星の旗を持つことからも主尊は北方を司る神格と考えられる。主尊の足元に亀。周囲には、赤い顔の関元帥、黒の趙元帥、火炎に包まれる馬元帥(華光大帝)、青顔の温元帥の四大元帥が描かれている。本作は、江戸時代より度々模写された。

《寒山拾得蝦蟇鉄拐図軸 4幅 伝劉俊筆 中国 明時代・16世紀》
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唐代に天台山に住んでいたという禅の聖者寒山と拾得、また二人の仙人で李鉄拐と蝦蟇仙人を描いて四幅対にしたもの。拾得は片手に箒を持ち、寒山は奇妙な笑みを浮かべ巻物を持ち、蝦蟇仙人は肩に白蛙を抱えて踊り、李鉄拐は魂を瓢箪から出し入れしている。

《羅漢図軸 1幅 中国 明~清時代・17~18世紀》
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紺紙に金泥で緻密に描かれた羅漢図。江戸時代の書家、市河米庵の旧蔵品。米庵によれば、友人の福井普がこれとそっくりの図様を含む嘉慶12年(1807)の羅漢図巻を所有していたという。

東洋館 12室 チベットの仏像と密教の世界

チベット仏教は、密教のなかでも呪術性が強く、とりわけ儀礼を重視することで知られます。そのため、教理と結びついた複雑な造形と仏の体系が築かれてきました。これに加えて、インドの風土に由来する多面多臂といった異形や、鳥獣や骸骨など異色のモチーフが多用され、見る者を圧倒します。中国にも断続的にその影響がみられますが、とりわけ元や清といった遊牧民族の王朝における信仰は篤く、チベット僧が招かれ数多くの仏像が制作されました。当館でも清朝時代、北京周辺の遺品を多数所蔵しています。本展示では、なかでも特色ある作品を選び、その豊かな信仰世界を紹介します。

《六臂マハーカーラ立像 1躯 中国 清時代・17~18世紀》
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マハーカーラは日本では大黒天として親しまれているが、本来は「大いなる暗黒(または時)」を意味するシヴァの別名である。額には第三眼、髪や眉を逆立て、六本腕には像や虎の皮をまとって怒号する恐ろしい姿で表されている。チベットでは寺院や宗派を仏教から守る護法尊として信仰された。

《ヴァジュラバイラヴァ父母仏立像 1躯 中国 清時代・17~18世紀》
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死神のヤマをも滅ぼすというヤマーンタカのうち「恐るべき忿怒尊」を意味する仏。水牛の頭に呪術的な道具を持ち、鳥獣や神々を踏みつけながら、妃のヴァジュラ・ヴェーターリーを抱擁する異形に表す。最上段の頭は文殊菩薩とされ、倒した敵を浄土へ導くとされる。 

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右《虎面母立像 1躯 中国 清時代・18~19世紀》
虎の顔を持つ女性尊。マカラ面の仏と対で表される。このように、裸に人間の皮をまとって踊る女性尊はダーキニーと呼ばれ、強い呪力をもつ仏として信仰された。他にも獅子や鳥などさまざまな顔のダーキニーが秘術と共に伝えられた。

中《馬頭尊立像 1躯 中国 清時代・18~19世紀》
日本では馬頭観音として親しまれているが、本来は明王と呼ぶべき忿怒尊のひとつ。頭上に馬の顔が三つ表される。一揃いとは思われないが、左右に配置した虎面母立像とマカラ面母立像とは大きさや装身具の表現がよく似ており、同じ工房で造られた可能性がある。

左《マカラ面母立像 1躯 中国 清時代・18~19世紀》
マカラ(怪魚)の顔をしている。乳房があり女である。

東洋館 13室 アジアの祈り

アジアには、健康や富を望み、災厄を避けるための、吉祥と呼ばれる考え方がある一方で、呪術や迷信、民間信仰などと呼ばれるものもあります。

また、自らの幸福を祈るときにも、単純に自分や家族の幸せを祈る場合もあれば、例えば悪霊など悪しきものの存在を想定して、それらを打ち払うことで幸せになろうとすること、あるいは、ほかの誰かを不幸に陥れることによって、自分が救済されると思い込むことすらあります。

この特集では、日本を含めたアジアの様々な信仰や習慣を、作品を通じてご覧いただきます。

《呪咀人形 1個 東京上野公園発見 明治10年(1877) 》
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1877年上野公園で銀杏の木に鉄釘7本で打ち付けられていた状態で発見された。

《銭剣 1本 中国 清時代・19世紀》
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現実の武器としては役に立たないが、銅銭の丸い形に四角い孔の空いた形(天円地方)は天地のすべてを表し、邪を払う力があると考えられていた。香港映画「霊幻道士」では妖怪キョンシーと戦うための道具として銭剣が登場した。

《クリス 1口 インドネシア、ジャワ島東部 17~18世紀》
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ニッケル鉄などで作られ、薬品で処理して独特の刃紋を作り出している。剣身には真っ直ぐなものと波形にうねったものの二種類がある。クリスは神秘的な霊力を持ち、時に持ち主に危険を知らせるという。結婚式などで男子の正装の一部ともなり、また家宝として大切に保管される。

《精霊の仮面 4面 パプアニューギニア、ニューギニア島北東部 20世紀初頭》
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木と食物繊維でつくり、彩色や貝殻で飾った仮面。ニューアイルランド島北部の長期間におよぶ葬送の行事マラガンの中で用いられたこの下面は、祖先の姿を現していると伝えられる。