名勝八景 ─憧れの山水@出光美術館

東京丸の内にある出光美術館です。

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名勝八景 ─憧れの山水(キャッシュ)展を観ました。

憧れの名勝、夢のようなその光景を、ひと目この眼で見てみたい ─そんな願いを古来かなえてきたのが山水画でした。さまざまな景勝地の美しき情景を山水画の中で想像し、そこに自らが遊ぶ様子を妄想する鑑賞の仕方を、中国では「臥遊(がゆう)」と呼びました。文字通り、寝ながらにして山水に遊ぶ、という意味です。つまり、山水画を愛でること自体が、部屋にいながらにして行える旅そのものなのです。

 

瀟湘八景―「臥遊」の発展と継承

1《山市晴嵐図 玉澗 一幅 紙本墨画 中国・南宋時代末期~元時代初期 33.1×82.8
潑墨。墨の濃淡を巧みに使い、山間の村、旅人、湖に架かる橋を素早く描いている。

2《瀟湘八景図屏風 雪村 六曲一隻 紙本墨画 室町時代 152.0×349.5》
第一扇、山に重くのしかかる雨雲から雨が降り注ぐ様子が、薄墨の垂れで表わされている。群れになった雁はまるで龍のよう。雪山の奇妙に張り出した岩。全体に物々しさが漂う。

3《瀟湘八景画帖 狩野探幽・安信 一帖 絹本墨画 江戸時代 各33.6×53.5》
法眼署名の安信作の明快さ。探幽のにじみを使った余情のある筆が冴えている。

5《山水図 伝 周文 一幅 紙本墨画淡彩 室町時代 90.4×35.1》
これでもかと細部が描き込まれた煙寺晩鐘。隣にある大きな画面の屏風と見比べて、その情報密度の高さにおののく。

◎6《瀟湘八景図屏風 伝 周文 六曲一双 紙本墨画淡彩 室町時代 各)162.5×342.5 香雪美術館》
葉の一枚一枚が描かれているような緊張感が漂う画面に、金泥のわずかな色付けによって柔らかさがもたらされている。屋内、画中の人物の表情までもみえるような描き込みが、写真を見るような面持ちで異国への思いをかきたてる。

7《瀟湘八景図 狩野探幽・安信 八幅対のうち 絹本墨画 江戸時代 各32.8×52.8》
洞庭秋月の、闇を破るような月の輝きが面白い。

8《瀟湘八景図屏風 久住守景 六曲一双 紙本墨画淡彩 江戸時代 各)152.2×344.4 サントリー美術館》
扇ごと明確に八景を描き分けている明快さが面白い。

西湖―描かれた「地上の楽園」

9《西湖図屏風 狩野元信 六曲一双 紙本墨画淡彩 室町時代 各156.3×357.8》
中国杭州の西湖は名所が多い。中でも西湖十景として三潭印月、蘇堤春暁、平湖秋月、双峰挿雲、柳浪聞鶯、花港観魚、曲院風荷、断橋残雪、南屛晩鐘、雷峰夕照が日本でも多く画題にされた。
伝周文に劣らず細密に描込まれた西湖の風景。孤山には白梅、白堤には鶴と林和靖らしき姿。湖には帆船が浮かぶ。
GoogleMapのEarthビューのよう。ここまでリアルに描き込まれたら、写真を見慣れた現代人でも臥遊するに十分だ。

◎10《西湖図屏風 鴎斎 六曲一双 紙本墨画 室町時代 各165.5×359.0 京都国立博物館
枝垂柳が目立つ。帆船はなく小舟だけ。白堤に鶴。

11《西湖図屏風 狩野山楽 六曲一双 紙本墨画淡彩 江戸時代 各151.7×345.4 サントリー美術館
西湖十景モチーフ。焼け落ちた雷峰塔の姿がある。
焼け落ちた雷峰塔

閑雅なる名勝―文人たちのいるところ

◎18《雙峯挿雲図 浦上玉堂 一幅 紙本墨画淡彩 江戸時代 174.5×90.5
通常屏風の両端に分けて描かれる西湖の北高峰と南高峰を並べて描いた異例の作で、まるまると曲線が跳ねる。日本昔ばなし的なのどかな雰囲気が漂い、赤鬼やらが紛れていても不思議でないような。

21《瀟湘八景図巻 画/岩佐又兵衛 賛/陳元贇 一巻 紙本墨画 江戸時代 30.4×448.3》
瀟湘夜雨は細かな線で表わされた横殴りの雨、傘をすぼめて山道を行く旅人。煙寺晩鐘では手前の橋に高士が佇み、瀑布を眺めている。さらに左には山道を進む従者を連れた高士の姿。彼らの進む先に寺院の楼門が見える。
人物の表情まで見えるような緻密な描き込みや、身をよじるような松の樹形、又兵衛に特徴的な筆致が楽しめる。

○23《赤壁図屏風 長沢芦雪 六曲一双 紙本墨画淡彩 江戸時代 各177.0×565.5 根津美術館
波は荒くとも、船上の高士は気楽に笛を吹いている。帆先には茶道具。
岸壁に打ち付ける荒波や岩々は自然なグラデーションで描かれる一方、木々はスタンプで押したように段階的な濃淡を持ち、波は濃淡も水流の間隔も単一で、高士らの表情はゆるい。まるでTVアニメーションのような、その緩急に魅了される。

名所八景―日本の名所

26《宇治橋柴舟図屏風 六曲一双のうち右隻 紙本金地着色 江戸時代 149.5×313.8》
金雲の際、水車の水飛沫等が黒く描かれているが本来は銀なのだろう。当時の一層の華やぎを想像して見惚れた。水流の運筆に多々乱れがある。

34《近江名所図屏風 六曲一双 紙本金地着色 江戸時代 各153.0×361.5 サントリー美術館
琵琶湖を北西から眺めた風景。
単眼鏡で細部を見ているといつまでも飽きない。市の賑わい。野良犬の他にサルもいる。兎肉や魚を売っている行商人。右隻右上明神鳥居に三角の破風が乗った形の山王鳥居があるのが日吉神社。

○《須磨・明石図屏風 土佐光起 六曲一双 紙本着色 江戸時代 各153.9×328.2》

36《近江八景画賛 仙厓 一幅 紙本墨画 江戸時代 48.2×73.3》
仙厓さんのおなじみのゆるさで近江八景が一気に描かれ、「富士山の置き土産なり比良の雪」の句が添えられている。さっきまで眉間に皺よせて絵に向き合っていたのが、ここで一気に脱力させられる。仙厓さん、やっぱり凄いわ。

 

休憩室。
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前日に即位の礼があった皇居を望む。
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